先日、小林千寿六段主催の囲碁会である「千寿会」に参上した。この日は、横塚力七段がゲストということで、去年の御縁によって、小林六段から、特に技術経営士囲碁会のメンバーにも声掛けして頂いたからである。昨年も書いたように、横塚七段は、最近の勝率も高い関係者注目の若手棋士で、去年の「囲碁将棋チャンネル」の「お好み置碁囲碁道場」における技術経営士囲碁会代表松村幾敏氏との対局では、我々応援団も格別の体験をさせて頂いた。今回、技術経営士囲碁会からは、上田新次郎氏と臼田誠次郎氏が参加され、私も会場に駆け付けて、その雰囲気を味わい、臼田さんと楽しく一局打った。また、横塚七段の指導碁を横でずっと拝見していたら、実にゆっくりと、おだやかに打ち回されて、対局者にとって、後々の参考になり、棋力の向上につながるように感じた。私などは、自分の狙ったところにすぐ手をつけていって、しかも浅いヨミのために、局面が思いと違った方向に展開してしまうことが実に多い。碁は勝負ではあるが、「手談」とも言われるように、対局相手とのやりとりをジックリ楽しむところに深い味わいがあるはずで、そのことを改めてキモに銘じた。
この日は、世界を牽引する数理神経科学者で情報幾何学の創始者にして、文化勲章を受章され、京都賞も受けられた甘利俊一先生も出席しておられた。先生には、私も日頃、本田財団などでお世話になっているので、先生と横塚七段の碁も横から拝見した。先生は、若手トップ棋士ともいえる七段に対して、実にゆっくりと穏やかに着手を進められ、やはり数理神経科学を開拓した科学者の対局ぶりは、私などとは違っていると感慨深かった。
私は他用があったので中座したが、別れぎわに、小林六段から、真新しい囲碁のマンガ本を手渡された。帰宅して頁を開くと、それは小林六段が監修された囲碁マンガ「天棋」であった。このマンガ本は、かつて大人気を博し、フランス語、ドイツ語、英語などに訳されて、世界的にもこれを読んで碁をはじめた人も多いと言われる囲碁マンガ「ヒカルの碁」に続いて、多くの方に囲碁に興味を持ってもらうことをねらいとして出版されたもののようであった。著者は松田一輝氏。松田氏はかつてNHK出版社の「コミックで覚える囲碁」でマンガを描かれた方である。
この「天棋」と名づけられたマンガ本は、長編マンガとして構想されているようで、頂いたのは第1冊目。昨年12月11日に初版第1刷が刊行されたばかりである。長い物語の冒頭であるから、これから、ストーリーがどのように展開するか分からないが、同書の説明では、主人公は「天碁」という少年。佐倉藩の碁打頭を勤める三枝翔吾介とそれより遙かに碁の強い妻さなえとの間に生まれている。碁打頭の棋力はアマ4、5段なのに対して、妻の実力はプロ級、しかも、それをひけらかさない。そのような夫婦の子供として生まれた天碁少年にどのような運命が待っていて、彼がどのような道をたどるか、これからが楽しみだが、第一回は、碁打頭の妻さなえの対外試合の結果発生した事態と、そこに到る回想として、翔吾介とさなえが結ばれ、天碁と妹弥生が生まれて、翔吾介が佐倉藩の碁打頭になるまでの経過が描かれている。
このマンガ本は、全体158頁で、紙が軽く持ち運びやすい。有難いのは、さなえや翔吾介の打ち碁の棋譜が示されていることである。また、ストーリーに絡んで、かの有名な赤星因徹と後の本因坊秀策になる桑原秀策の耳赤の一局の棋譜も載っている。この本に出てくる棋譜を自分で並べれば、碁の実力が向上すると思われるが、私の場合は、目下、用務に取り紛れて、それはできていない。
そこで、「天棋」という言葉は聞いたことがあるように思ったので、懸命に記憶をたどり、ネットを調べたら、内田康夫の囲碁ミステリー「本因坊殺人事件」に「天棋戦」という棋戦がでてくるのを、改めて確認した。「本因坊殺人」というただならぬタイトルに目を引かれて、書店ですぐ手が伸び購入して読んだのだが、これは、「天棋」位を争う挑戦手合いの直ぐあとに殺人が起こるストーリーだった。囲碁に関するミステリーが数ある中で、この書は単に囲碁や囲碁界を背景としているだけではなく、囲碁の対局そのものの中に謎を解く鍵が潜んでいたので、とても面白いと思って読んだ記憶が蘇ってきた。とまれ、「天棋」の第二冊を早く読みたいと思っている。
その後、さらに小林六段にお話を伺ったところ、「天棋」の中身は、すでに将棋雑誌に連載されてきたとのことだった。そうならば、上述の「これから、ストーリーがどのように展開するか分からない」のは、その雑誌を読んでいない私に関することで、一般にはストーリー展開は既知になっていると思われる。しかし、今回のマンガ本版では、雑誌版から、その内容が変ることがあるのだろうか。そのあたりに興味がある。いずれにせよ、「天棋」について、今後を楽しみにしていきたい、(2025年1月29日記)
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