(60)審判の役割

 サッカーW杯は、我が国代表の活躍もあって、大いに盛り上がり、素晴らしいパフォーマンスを見せたスペインが優勝した。各国が激戦を繰り広げる中、審判の判定に関して、いろいろな議論があった。サッカーは激しい競技であり、ファウルか否か、ペナルティエリア内でわざと倒れてPKを貰おうとしたかどうかなど、流れていく試合の中で反則か否かの判断が実に難しい。今や大きなゲームでは、VARなる機能が整えられているようだ。VARとはVideo Assistant Referee。文字通りビデオによる審判補助機能である。これとて、機械が自動的に判断するものでは無く、現場を映している何台ものビデオを多くの判定員の方が見つめていて、そこで判断するようだ。この場合、我が国プロ野球のリクエスト制度やテニスのチャレンジ制度と異なり、チームの代表がVAR判定を要求するというものではなく、VARの方からレシーバー等を通してレフリーに働きかけ、レフリーがそれを踏まえつつ最終判定をするというもののようである。

 鍛え抜かれた各国の選手が、国の名のもとに勝負を競うサッカーW杯の場合、審判の判定が勝敗に直結する場合があり、VARがあっても判定に対する不満が残ることもあろう。極めて速い動きに対する瞬間的な判断は、機械をもってしてもむずかしい。野球やアメフトはプレーが中断されつつ進むが、サッカーは動きが連続するから、選手の動きがルールにもとっているか正しいかを瞬時に判断し続ける仕事は容易ではない。ただ、判定結果が決まれば、チームも観衆もそれを受け入れるしかない。

 瞬時の判断といえば、相撲の行司も難しい判定を迫られることがある。大相撲の場合、行司以外に5人の勝負検査役が土俵下から目を光らせており、別に、映像をチェックして勝負検査役と連絡する仕組みもあるようだ。それでも、微妙な判定はあるし、軍配の差し違えもある。

 このようなスポーツの審判に比べて、囲碁将棋は、ルール違反かどうか、もめることはほとんどない。投了あるいは中押負けという形で、負けた方が自らそれを認めて試合終了にするのは潔くて、私達の好むところである。プロの場合は、立会人が定められ、挑戦手合いなどの重要対局には、立会人は盤側で開局を宣言し、二日制の場合は封じ手を入れた封書を預り、翌日開封するなど、大きな役割を果たす。立会人は、必要ならば審判のような機能を果たすだろうが、そんな場面が現出することはまずないと言っていい。

 しかし、これが私達アマチュアの職場対抗大会のチーム戦ともなると、審判機能も重要になる。もちろん対局内容に関する勝ち負けは明白であるから、そこだけで審判の判定を仰ぐほどのことはほとんど起きない。問題は時間である。

 職場対抗戦は大体土曜日か日曜日に開催され日本棋院の大ホールなど大きな会場が使われる。普通、1チームは3人又は5人で構成され、昼頃に始まって夕食時刻の前に終わることが多く、その間に一人3局ほど対局する。トーナメント方式が採用されることが多いから、チーム全体の勝ち負けによって、勝ち上がり、または、負け下がりが決まり、次の対局相手に向わなければならないので、各人の対局は大体同じ頃に終わる必要がある。したがって、時間の制限はかなり厳しく、1局一人30分あるいは40分ほどを考慮時間と決め、対局時計を使って、制限時間内であることを示す時計内の針が落ちれば即キレマケ(時間切れの負け)という仕組みが採用される。囲碁の場合は、時計は白番の人の右手の方に置き、打ったその手で時計を押す、相手の石を打ち上げた場合は、その石を除去してから時計を押す。

 そんなやり方で私達は対局するのだが、日頃は時計を使わないことがほとんどのため、時間制限のある対局に慣れていないから、一手打ってすぐ時計を押さない場合が頻繁に出現する。すると、相手の考慮時間が自分の考慮時間として消費されて行き、自分の時間が無くなって、キレマケということになる。

 時計の押し忘れの時、隣の味方の人が「おい、時計、時計」と注意すると、それは助言になるのかどうか。敗北決定的ではあるけれども、自分の時間はたっぷり、相手は勝利確定的ではあるものの、残り時間がわずかになり、今にも針が落ちそうになっているような場合、敗戦確実ながら、終局を認めずに、ダメや無意味な手を着手し続け、相手がキレマケになるのを狙うのは、許されるかどうか。当事者同士では解決できないことはある。さらには、石がずれたのに十数手先まで気がつかず、気づいたときには、復元不可能になってしまっていることすらある。そんな場合、第三者の客観的な判定が必要になり、プロ棋士やアマ強豪が審判長として裁定されれば、双方、納得できる。ただ、実際は、審判長が具体的に判定を下す場面はほとんど発生せず、力量が懸絶している審判長の存在によって、むやみに勝ちに拘り、あるいは敗戦を峻拒して、むちゃくちゃに頑張るようなことが起こらなくなる。かなり前に、私が参加した大きな囲碁大会で、アマ四天王のお一人村上文祥先生の出馬を仰いだことがあった。

 とまれ、サッカーなどのスポーツと異なって、囲碁や将棋では、判定困難な際どいプレーが好プレーに繋がることはないように思うから、審判を煩わせないで、多くの方と対局できる大会を楽しんでいきたいと思っている。(2026年7月25日記)                                                       

石川県人 心の旅 バンガイ編 by 石田寛人

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