最近、将棋の藤井聡太五冠の驚異的勝率でのタイトル獲得・防衛や、少女囲碁棋士仲邑菫さんの活躍で、囲碁将棋がテレビや新聞やネットに登場する機会が多くなった。それにともなって、囲碁将棋に関心を持つ人が増えているのではないかと言う向きがある。ぜひ、そうあってほしいと思うが、実態はどうだろうか。
私の率直な感じで言えば、私の若い頃、囲碁や将棋は、今よりもっと身近にあったように思う。企業や官庁のオフィスのロッカー上には、碁盤と碁笥に入った碁石、あるいは将棋盤と駒箱の中の駒が置いてあって、昼休みには昼食もそこそこに一局10分から30分の超短時間対局がそこここで楽しまれていた。最近は、娯楽がとみに多様化していて、いろいろなスマホのゲームを気軽に楽しめる。今や相手なしでひとりでできるゲームが好まれる傾向があって、盤を挟んで向かい合いたいと思う若い人は、かなり少なくなってきたようだ。世の中全体が忙しくなり、昼休みにまで勝ち負けを争いたくなくなったのかもしれない。また、昼休みは照明をおとして省エネに努めることも一般化した。大学や企業の囲碁将棋のクラブ活動や部活は活発で、すばらしい棋力の方々もおられると聞くが、これら極く少数の極めて強い人と我々一般人との囲碁将棋のギャップが大きくなってきたようにも思える。そんなことで、我が国の囲碁人口、将棋人口の最近の傾向はどうなっているであろうか。
日本生産性本部の編集発行による「レジャー白書」をひもとけば、近年の囲碁人口、将棋人口の状況が分かる。「レジャー白書2021」によれば、2020年の囲碁人口は180万人、将棋人口は530万人となっていて、いずれも前年の230万人、620万人からかなり減少している。分析によればこれはコロナ禍によることろが大きいとのことだが、そもそもこの囲碁人口、将棋人口の定義はいかなるものであろうか。
レジャー白書では、幅広く各種の余暇活動の参加人口を調べているが、そこでは、それぞれの余暇活動を1年間に1回以上行ったことのある人の割合を調査してこれを参加率とし、これに15歳から79歳までの総人口を掛けて推定している。すると、去年80歳になった私は、参加人口のカウントからこぼれつつある人間ということになるかもしれない。「1年間に1回」というのは、我々囲碁好き将棋好きの感覚とはいささか違うようにも思えるが、レジャーの種類によっては、年1回参加という頻度も妥当なのであろう。ともかく、同じ定義で毎年調査が行われているから、傾向は十分把握できる。
近年の推移をみると、2009年の将棋人口は1270万人、同じ年の囲碁人口は640万人で、それ以降若干の凹凸はあるが、大体漸減傾向を示している。将棋については2015年の530万人を底に近年若干持ち直したものの、2020年は、また底と同数まで減少した。囲碁人口は2017年の190万人が最低だったが、2020年はついにそれを下回ってしまった。
現在の世界の囲碁人口は約4000万人と言われており、将棋は我が国以外ではほぼ行われていないからこのような数字はない。また、他のレジャー人口と比べると、2020年で動画鑑賞は3900万人、ウォーキングが3290万人とされているから、我が国では、娯楽としての囲碁将棋の相対的なウエイトは下がりつつあるようだ。
このような傾向は残念ではあるが、冒頭に触れたように最近は囲碁将棋の話題がマスコミでかなり取り上げられているから、今年の10月に発表されるであろうレジャー白書の数字を見るのが楽しみである。(2022年9月1日記)
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