(26)団体戦

 囲碁も将棋も、個人でプレーするゲームである。好手も悪手も、勝ちも負けも全て自分から発したものであり、結果は全て自分の責任である。コントラクトブリッジと違って、ペアを組んでいる相方のビッドやプレーが拙かったと責任転嫁することはできないし(もちろんブリッジの名手は決してそんなことはしないと思うが)、麻雀などのようにツキによる出来不出来も全くない。ただ、指運(ゆびうん)という言葉があって、判断に迷ってトッサの指先の動きに委せて着手し、それが勝負の分かれ道ということがあるが、これも自分の責任であることは変わらない。ところで、この個人プレーのゲームを団体戦にしたらどうなるだろうか。

 団体戦にする方法はいろいろある。例えば、ひとつの盤を挟んで、2グループが対峙し、グループで相談して着手を決めるようにしたらどうか。ただし、これは着手を決めるまでに時間がかかるし、相談は別の部屋でしないと着手の意図が相手に分かってしまう。オンライン利用のネット対局ならこれが自然にできるが、両方に継ぎ盤を置いて検討を重ねると何だか研究会のような雰囲気になるようにも思える。

 敵味方両グループが、予め順番を決めて、相談無しに一人が一手ずつ着手していくのはどうだろうか。これは、新年における碁の打ち初め式、将棋の指し初め式のスタイルに近い。しかし、前の人の着手意図を汲み取るのが容易ではない。

 これらは、もちろんやってできないことではないが、囲碁将棋を画期的に面白くするとは思えない。

 そんななかで、大成功しているのは、囲碁におけるペア碁、将棋のペア指しである。ペア碁は、先に日本経済新聞に「私の履歴書」を書かれ、パンダネットのしくみをつくって遠隔対局を盛んにされた大経営者で囲碁の強豪滝久雄さんの発想で、滝さんはこれによって文化功労者として顕彰されている。私は、たまたま仕事の関係で何度か滝さんと同席する機会があったので、時に囲碁について教えて頂いたが、二人が組んで交互に着するペアの囲碁将棋は、力量がある程度揃っていれば、相互の意思疎通が図られやすいし、一度の失着が後にひかないというメリットがあり、対局が楽しい。

 さて、団体戦と言えば、3人か5人が一チームを形成して一斉に対局し、それぞれの個人戦の勝敗を合計して勝負を決める職場対抗戦が広く行われている。自称の段位に従ってハンデをつけ、勝率の高い人は次回に昇段することにしたり、全てハンデなしで対戦したりと手合割りはいろいろある。基本的に各チームは段位の低い順から先鋒、中堅、大将(5人制なら先鋒、次鋒、中堅、副将、大将)が並ぶ。もしその順に強くなっていって、しかも敵味方同じような実力なら、先鋒が相手の大将と対局して大敗し、中堅が相手の先鋒に勝ち、大将が相手の中堅に勝つようにすれば、2勝1敗でチームは勝利できることになる。私のかすかな記憶によれば、古代中国の有力者同士が互いの3頭の持ち馬を競走させたときに、この作戦が使われたことがあるようだが、現在の囲碁将棋で、そんなことを考えるチームはないようだ。アマチュアは、勝ちたくはあるが、実力の釣り合った相手と楽しく勝負を争うのが喜びだからだ。しかし、大学生の対抗将棋大会などでは、どの選手をどこに配置するかは、大切な作戦になるかもしれない。

 囲碁にも将棋にも長考派と早見え派がいるが、団体戦では一局が極端に遅くなるのは避けたい。囲碁将棋の大会を一日で終了させるために、団体戦の勝敗は一定時間内につけなければならないから、手合い時計を用いて、ほどよい持ち時間を設定し、時間が切れたらそのまま負ける仕組みが採用される。私が出場する囲碁の大会も大体その方式で、持ち時間は30分とか40分である。そこで、自分の石を盤上に置いたらその手で時計を押すべきことをよく心得て対局を始めるのだが、対局に熱中してくると、石を置いても、ついつい時計を押すのを忘れる。すると相手の考慮時間がそのまま自分の消費時間となるから、もし相手が何もしないでいると、自分が時計のキレマケになってしまう。しかし、相手の様子から自分の時計の押し忘れに気づいて、着手後数分して時計を押すことがままある。さらに、相手の方から、折角の対局を時計のキレマケで勝負をつけたくないということからか、「ア、時計、時計」と注意してくれる人もいる。これは厳密には相手への助言かもしれないが、前述したようにアマチュアの団体戦は対局そのものが楽しみだから、そんな場面が時折発生する。もちろんアマの強豪同士の対局や、大学対抗の学生の対局では押し忘れは絶無なのだろうが。

 Abema将棋トーナメントでは、プロ同士がチームを組んで対戦するから面白い。1チ-ム3人で3回ずつ対局する9回戦。5勝で勝利するが、同じカードでの対局が2度あってもかまわない。チーム内でその都度対局者を決定して作戦を練るところが興味深い。このようにして作戦会議はあるものの、対局が始まれば、全ての指し手は個人の責任で行われるが、控え室で対局室のモニターテレビを見ている同僚プロ棋士の表情が面白い。この3人ずつの9局勝負というのは、誰かが全勝しても、チームの勝利には直結せず、また誰かが全敗してもチームの負けにはならないところが面白く、しかも同時並行対局ではなくて、順番に戦うから登場順の影響もまた大きい。

 ペア碁、ペア将棋も含めて、個人ゲームの碁将棋に、団体戦の面白みをどのように加味していくか、これからの工夫も楽しみである。(2023年10月5日)

石川県人 心の旅 バンガイ編 by 石田寛人

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