(28)引分け

 藤井聡太竜王名人の八冠獲得の最後の難関王座戦挑戦手合い五番勝負のうち、その第2局は、9月14日に指され、214手という異例の長手数で相入玉の持将棋模様となりながら、最後藤井挑戦者が永瀬王座の玉を鮮やかに詰ませたことで注目された。

 長時間の応酬が続き、終局近くには長く1分将棋を指し続ける大熱戦で、私も手に汗を握って、ネットを見ていた。最後は、藤井挑戦者優勢の局面から、持将棋になると予想したが、挑戦者側に駒数が多い上、大駒が3枚もあって、点数計算で挑戦者勝利かと思った。しかるに、あっけない詰みがあって、永瀬王座の投了となった。

 この時、ネット上の愛棋者の間で、相入玉の場合の勝負の付け方について若干の議論があった。プロの世界では、この場合の決着の方法ははっきり決まっており、プロ棋士は全て熟知しておられると思うが、アマチュアには、それほど知られていなかったのかもしれない。このことに関する基本的ルールは「入玉宣言法」と呼ばれ、2013年10月に決められている。

 それは、入玉した側が、次の条件を全て満たしていると思う場合、手番の時に、「宣言します」と言って勝ちを宣言するものである。

1.宣言側の玉が敵陣3段目以内に入っていること。

2.宣言側の玉以外の駒が敵陣3段目以内に10枚以上存在すること

3.宣言側に王手がかかっていないこと

4.宣言側の持ち駒と敵陣3段目以内にいる駒の点数が一定以上であること

5.宣言が時間内に行われること

 ここで、点数とは、大駒(飛車・角行)は5点で、小駒(金将・銀将・桂馬・香車・歩兵)は1点。王将は0点。従って両軍の駒の点数を合計すると54点となる。

 また、一定以上の点数とは、プロの場合は、31点以上で、24点から30点までなら持将棋となる。宣言を行ったにもかかわらず、上記の条件が満たされていない場合は負けとなる。これは24点法と呼ばれる。アマの場合は,一般的に27点法が採用され、先手なら28点以上、後手なら27点以上で勝利となり、宣言による持将棋はない。

 このように「入玉宣言法」の規程は極めてクリアであるが、これ以外にも、一般に相入玉の形になって、手番の人が持将棋をもちかけ、相手が同意すれば、持将棋が成立する。しかし、相手が同意しなければ、将棋は延々と続く。こんな状況でも、同一局面が4回続けば千日手が成立する。しかし、双方譲らず着手を続けると500手に至って王手がかかっていなければそこで持将棋となる。

 ここで、将棋や囲碁の引分けについて考えさせられた。「持将棋」、「千日手」はまさに引分けである。しかし、千日手や持将棋になると、すぐその場で、先後を入れ替え、それまでの消費時間を加味して設定される時間によって対局が行われ、基本的にその場で決着が付く。結果としての引分けはない。これは、引分けが多く発生する我が国のプロ野球リーグ戦と大いに異なる。プロ野球でリーグ優勝を争う場合は、引分けの多い方が有利だ。順位は勝率によって決められることになっており、同数の試合を行って、引分け試合は、勝率を求める計算で、勝数を割る全試合数から除かれるためだ。極く簡単に言えば、5試合制のリーグ戦では、勝越し3の4勝1敗よりも勝越し1の1勝0敗4引分けの方が高勝率になるということだ。ここにおいて、我が国のプロ野球は、結果としての引分けがない米国のメジャーリーグとは違う。

 リーグ戦なら、全試合数にもよるが、引分けがあっても、困ることは少ない。しかし、トーナメント制では、勝ち上がり者を決めなければならないから、引分けは困る。甲子園の高校野球の好試合を見ている年配者が「両チームに勝たせてやりたい」と漏らすことがあるが、トーナメント制だから、そうはいかない。体力の消耗などですぐには再試合できないスポーツの場合は、じゃんけんやコイントスもありうる。決勝戦の引分けの場合のみ、双方優勝という制度はつくりうるし、大学や高校のラグビー、サッカーの全国大会等はそのようになっている。将棋では、名人戦、王将戦と王位戦(紅白別で優勝者同士の対局はある。)の最終段階はリーグ戦だが、多くの対局はトーナメント制で行われるから、結果としての引分けは無しということなのだと思っている。

 なお、囲碁の場合は、盤面の「持碁」はあるが、6目半という先番有利を調整するためのハンデを先番側につけるという工夫で引分けを回避している。対局中に「三コウ」や「長生」という堂々めぐりが永久につづくプロセスに入ることは絶無ではないだろうが、これらは極めてレアなケースであり、結果としての盤面に現れることのない「半目」のキザミにより、まずは引分けは発生しないことになっている。(2023年11月22日)引分け

石川県人 心の旅 バンガイ編 by 石田寛人

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