(30) 能登半島地震と棋王戦

 元日の16時10分、能登半島を襲った地震で、穏やかだった今年の正月はすっかり違うものになった。地震発生時、私は東京の自宅に居たが、地震の後、何度か石川県に入って小松市の旧宅の状況を確認した。石灯籠が2基倒壊、1基の玉が飛んでいた。仏間の砂壁は一部崩れ、外壁は剥落した。しかし、能登半島各地の状況からすれば、我が家の姿などは被害のうちに入らないと思った。この能登半島地震によって、命を失った方は230名を超え、重軽傷者は千人以上で、道路は寸断された。停電はかなり速やかに復旧するところが多かったが、水道はなかなか通らない。孤立集落は、18日あたりで、実質的に解消されたが、多くの方々が避難所で不自由な生活を送っている。亡くなられた方々に心からお悔やみ申し上げ、負傷された方々の早期快癒を祈り、被災者の皆様に穏やかな日々が戻るように祈念している。

 能登の状況は誠に厳しいけれども、能登の人達や石川県民、そしてこの地震でやはり大きな被害を受けた富山県や新潟県の被災者は必ず復興に向けて力強く歩み出すであろうし、すでにその様子が報道されている。そのために微力を尽くしたいと思っている。

 この地震に対して、国や石川県庁はむろんのこと、広く全国の方々から公私わたって力強い御支援やお心遣いを頂いてきている。石川県人のひとりとして、厚く厚く御礼を言上し、今後とも、どうかよろしくお願い申し上げる。

 能登半島地震の被災状況を見るにつけ、各種の活動を控えるべきとの見解もある。しかし、広く多くの方々が通常の消費生活をしっかりと継続し、それに対応する生産活動も活発に行い、さらに科学技術学術関係の活動やスポーツ芸術文化活動も粛々と堂々と展開し、我が国の活力を衰えさせず、ますます活発化することこそ、能登の復興支援が大きな力になりうると信じている。

 囲碁や将棋は、大切な文化活動である。将棋の世界では、この時期、棋王戦の挑戦手合い5番勝負が行われる。今年は、藤井聡太棋王(八冠)に対して伊藤匠七段が挑戦し、2月4日の第1局が富山県魚津市の新川文化ホール、2月24日の第2局が金沢市の北國新聞会館、3月3日の第3局が新潟市の新潟グランドホテル、3月17日の第4局が日光きぬ川スパホテル、そして、3月26日の第5局が東京都渋谷区の東郷神社で行われると発表されている。ここで、第1局から第3局までが、全て能登半島地震で影響を受けた地域なので、予定通りの開催が可能なのかと危惧する向きがあるようだ。

 予め決められた日程と場所がこのようになったのには、偶然であろうが、こういうこともあり得よう。それぞれの開催場所の状況をみると、まず富山県の魚津市は、地震の影響はかなりあっただろうが、富山県内では、災害救助法の適用を受けない2市町のひとつであり、対局に支障はないと思われる。第2局の金沢に関しては、地震後の街のたたずまいは整然としているものの、地震の揺れはかなり大きく、家屋の中は壁が剥がれたり、棚が落ちたりしており、金沢城の石垣が数カ所崩壊している。しかし、金沢をはじめとする加賀の被害は、総じて通常の生活を送りうる範囲にとどまっており、将棋の対局ができないような状態ではないと言える。新潟市も大きな地震被害を受けているが、これまた、3月の対局に決定的な支障があるとは思われない。このような状況から、富山・石川・新潟3県の棋王戦北陸シリーズはぜひ行って頂きたい。この番勝負の両対局者や立会人をはじめとする関係の方々には、能登半島地震のよる北陸三県の被害と被災者の状況に思いを致して頂ければ誠に有り難いが、その上で、多くの人が感動する名勝負が展開されることを心待ちにしている。(2024年1月24日)

石川県人 心の旅 バンガイ編 by 石田寛人

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