将棋のタイトル戦叡王戦は、新しい棋戦である。いくつかのタイトル戦同様、トーナメント戦の優勝者がタイトル保持者に挑戦する。挑戦手合は5番勝負で一日制。現在のタイトル保持者すなわち叡王は藤井八冠で、今年は藤井八冠と同年齢の伊藤匠七段が挑戦している。
叡王戦は、プロ棋士とコンピューター将棋ソフトウェアが対戦する将棋電王戦に淵源を持ち、ドワンゴから不二家に主催が移って開催されている棋戦で、2015年創設、2017年にタイトル戦となった。タイトルへの挑戦手合は、毎年、名人戦と重なるようにして行われ、当初7番勝負であったが、今は5番勝負に改められた。
この棋戦で面白いのは、一次予選が、各段ごとにトーナメント方式で行われることで、各段から勝ち上がった1、2名の棋士が最終予選に臨み、その勝者が挑戦者となる仕組みをとっていることである。また、この棋戦の挑戦手合は、持ち時間が各4時間と短く、ストップウォッチではなくて、チェスクロック使用となっている。そのため、1分未満の切り捨てがないから、時間が早く進み、考慮時間が少ない。
これまで、第6期から第8期までは藤井聡太竜王名人が叡王位を保持しており、今年の第9期に、藤井聡太八冠と同年の若手棋士で、近年その活躍が注目されている伊藤匠七段が挑戦している。藤井八冠の強さは群を抜いているが、全タイトルを独占する藤井八冠が、防衛に最も苦労するのが、持ち時間の短い叡王戦とも言われており、新鋭の強豪藤井七段の挑戦は、斯界の注目を浴びることとなった。
挑戦手合の第一局は、4月7日、名古屋の料亭「か茂免」で行われ、激戦の末、藤井叡王が勝利した。そして、その第二局が4月20日、石川県加賀市のアパリゾートホテル佳水郷で行われたのである。片山津温泉での対局なので、私は大盤解説参加者公募に応募し、抽選に当たったので、当日は勇んで片山津温泉にでかけた。この風光明媚な湯の町も1月1日の能登半島地震の影響が大きいが、ともかく、棋戦の挑戦手合の開催に漕ぎ付けられた日本将棋連盟とアパグループに深く感謝したい。
大盤解説の会場は、佳水郷の大広間で、多くの愛棋家が参加していた。男女比は男性6対女性4といった感じで、ここでも女性フアンが増えているのを強く感じた。
この対局は、立合人が谷川浩司第17世永世名人、大盤解説が伊藤真吾六段、聞き手が村田志穂女流二段であったが、時に永世名人も解説に立たれて、参加者は大満足であった。将棋の内容は、もちろん私にはよく分からなかったが、スマホで勝率を見ると先手の伊藤七段が優勢の局面が多く、終盤、藤井叡王が押し返す場面もあったようだが、結局伊藤七段の勝利となり、藤井叡王のタイトル戦17連勝はならなかった。両対局者は対局の疲れもものかは、大盤解説の会場に来られて挨拶されたのは有難かった。
終局後、私は東京に帰りたかったので、片山津温泉の総湯まで歩いて、すっかり暗くなって漁火がかすかに灯り雰囲気満点の柴山潟の湖面を眺めたりしてバスを待ち、加賀温泉駅から北陸新幹線のつるぎ42号・かがやき518号と、北陸方面から東京への新幹線最終列車を乗り継いで、23時32分東京駅着。自宅に着いたのは零時半くらいであったが、ともかく、片山津温泉で将棋を見て、その晩東京の自宅で休めるのは、老人にとって、とても楽で、北陸新幹線延伸のありがたみを強く実感した。
そして、5月2日。名古屋の東急ホテルで行われた叡王戦挑戦手合第3局は、またも挑戦者伊藤七段の勝利となり、藤井叡王は、カド番に追い込まれた。藤井叡王が叡王位を防衛するには、2連勝しなければならない。今月31日千葉県の柏の葉カンファレンスセンターで行われる第4局が俄然注目を集めており、当日は、私もスマホでフォローしたい。(2024年5月20日記)
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