日本将棋連盟と北國新聞社(共同通信社)主催の将棋棋王戦コナミグループ杯挑戦手合いは、タイトル保持者藤井聡太棋王に、増田康宏八段が挑戦する顔合わせとなった。藤井棋王先勝の後を受けた第二局が2月22日、金沢の北國新聞会館で指されて藤井棋王が連勝したが、私は、幸運にもその前夜祭に参加することができた。その晩は、100名を越すファンや大勢の関係者が会場の金沢ニューグランドホテルに詰めかけたが、その中にかなりの数の女性の方々がおられて、いよいよ金沢でも、将棋は女性に普及してきたかの感を深くした。
しかし、この一局の立会人青野照市九段の言葉を聞いて驚いた。九段は、ここでの女性の割合は低いと言われたのである。九段によれば、東京等の同じような会場では女性が圧倒的に多数なのが通例とのことであった。今や世の女性ファンはそんなに多いのか。そんなに大勢の女性が全国の前夜祭に参加しているのか。関係者といろいろ話してみた。その結果、女性の将棋ファンは確かに全国的に増えており、そして、とても多様性に富んでいることが認識できた。棋力の極めて高い強豪とも言える方、ごく普通の棋力の方、将棋を覚えたての方、更には、駒の動かし方もよく分からないが、棋士同士の勝負が面白く、それぞれ贔屓の棋士を強く応援する方と実にバラエティに富んでいるようなのだ。
将棋の内容がよく分からないのに見ていて面白いかとも思うが、やはり勝負師としての棋士の姿には、何とも言えない魅力がある。人が一つ事に集中する姿は美しい。しかも、盤を挟んで、それぞれ、相手の王将を捕獲すべく工夫をこらす姿は、着手の内容を別にしても、人を惹きつけるものがある。NHKテレビでは、勝負がついたあと、両棋士は感想を求められる。勝った方は、間違いなく嬉しいだろうが、それを表にあらわさず淡々と語り、敗者の方は悔しさをつつんで、勝負の分かれ目や敗着を客観的に指摘することが多い。勝ってガッツポーズをとり、万歳を叫び、負けて悔しいと喚き、地団駄を踏むのも、勝負の結果に対する人間らしい素直な感情表現であって微笑ましく、世に広く一般的に行われて、それはそれで結構なことである。それとともに、勝者は敗者を慮り、敗者は勝負結果をリスペクトする対局後の言葉には、やはり胸いっぱいに広がる何かを感じる。
そんなことで、将棋を指せなければ将棋ファンになれないということは全くなく、よしんばルールにはかなり疎くても、プロの棋士が盤を挟んで行う勝負の営みを堪能する人は増えているのだろう。実は私の妻も、前は碁盤と将棋盤の区別をつけるのがやっとというほどであったが、今は、テレビ対局で棋士の姿を結構楽しんでいる。
そこで、女性も男性も、私どもが気をつけなければならないのは、今や、AIによって、それぞれの局面の勝率とその局面における最善手がテレビやネットで示されることに対してである。そこで、その局面での最善手を指さない棋士に物足りなさを感じたり、棋力が不足していると思ったりして、あたかも神のごとき立場で将棋を見てしまうことになりやすい。AIは人間の所産ではあるが、今や個々の推論機能などでは人間はAIに及ばない。そのAIも神には遙かに及ばない。我々は神になったように振る舞ってはならない。AIなしの裸の我々アマチュアに比較して、プロ棋士の力は懸絶している。それを尊敬しないで、プロ棋士の間のプロの勝負を本当の意味で楽しむことはできないと思う。
なお、棋王戦コナミグループ杯挑戦手合いの金沢対局に続く新潟対局は、3月2日に行われ、藤井棋王が勝って3連勝してタイトルを防衛した。今年度のNHK杯選手権も藤井七冠が優勝した。令和6年度の藤井棋王(七冠)の年間勝率は8割を割った旨報じられているが、やはり、今年度も藤井七冠の力に強く印象づけられた一年であった。(2025年3月20日記)
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