(45)お好み置碁道場

 私は、「技術経営士会囲碁会」というグループのメンバーである。「技術経営士」とは、一般社団法人技術同友会が創った私的資格であり、民間企業や官庁などで長年技術関係の経営経験を積んだベテラン技術者が、その経験を若い方々にお伝えして、企業経営、学校教育、社会活動等のお役に立ちたいという目的で創られた。現在200人ほどいる技術経営士のほとんどが会員となって「技術経営士の会」という団体を運営しているが、その中で、囲碁が大好きな10人あまりで結成したのが、この囲碁会である。はじめは学士会館に集まって対面で対局したが、コロナ以降は、基本、オンラインで打ってきた。

 仲間うちの強豪は、日立出身の上田新次郎さんと日石出身の松村幾敏さんで、日本工営出身の臼田誠次郎さんが世話役、日大幹部の山本寛さん達が参加されている。行きがかり上、私が会長ということになっているが、何もしていない。もっぱら臼田さん頼りである。そのようなこの会に対して、日本棋院の小林千寿六段から、囲碁将棋チャンネルの「お好み置碁道場」に誰か出ないかというお誘いを頂いた。一同協議して、松村さんに登場頂くことになった。時間のある者は、収録日に日本棋院に集まって、現場で松村さんを応援することにした。

 収録日は3月6日と決まった。そして、相手が横塚力七段と聞いて驚いた。七段は売り出し中の若手で、最近、各棋戦で絶好調であるのみならず、大活躍されている藤沢里菜女流三冠と結婚されて、極めて油の乗っている今を盛りの方である。「お好み置碁道場」は、勝負自体もさることながら、プロとアマとの懇親と交流、そしてプロからアマへの指導の要素も大きい企画と私は勝手に思っているが、金看板のプロと対局するのは緊張する。私自身がそのように感じたから、当事者である松村さんは、それがひときわだったと思われる。

 当日。石川県で用務を済ませた私は、応援部隊の集合時刻午後6時を目指して12時44分、小松駅で北陸新幹線「はくたか564号」に乗り込んだ。ところが、乗車直前、大宮上野間で新幹線車両の連結部分のトラブルで車両が離れてしまう事故があり、この区間は一時運休になったことが分かった。しかし、JR西日本は時刻表通りに列車を走らせている。先のことはともかく、そのまま東京に向かうしかなかった。乗車した「はくたか」は、富山までは順調だったが、黒部宇奈月温泉あたりから遅れが出始めた。遅刻しないか気になりだしたが、定時運行なら15時52分東京着で、事故対応も迅速に進むだろうから、1時間遅れても、約束の時刻には間に合うだろうと気持ちを楽にした。やはり、東京に近づくにつれて列車の遅れは増し、上野で約2時間、東京駅着は約2時間半の遅れだった。中央線で市谷に急ぎ、日本棋院前の坂を速足で上って、棋院の玄関着は18時50分頃。臼田さんに導かれて、集合時刻に大幅に遅れながらも、何とか対局場の控室にたどり着いた。

 対局はまだ始まっておらず、控室で、横塚力七段と松村さんを囲んで、本局の解説者小林千寿六段と聴き手の稲葉禄子さん、技術経営士囲碁会の上田さん、臼田さん、山本さんが談笑していた。松村さんは真新しい背広で、緊張気味のように見受けた。横塚七段は、極めて口数が少なかった。事前の打合せは終わっているようだった。

 30分程して、両対局者は対局室に入り、盤を挟んで着座した。棋譜読上げの矢野瑞季さん、記録の内田祐里さんがそれぞれ所定の位置につき、小林六段と稲葉さんが大盤の前に立って、対局がはじまった。対局内容は、後日放送されるので、ここでは書かないが、対局自体は速いテンポで進んだ。終局後両対局者は一旦控室に出てきて一息つき、それから局後の検討を行う場面がまた収録された。最後に一同で記念撮影をして散会したが、囲碁対局のテレビ画面も、実に多くの努力の集積であることを、改めて認識した。放映日は5月30日とのことで、控室のモニターで見た画面が、放送ではどのように映るのか、楽しみにしている。(2025年4月20日)

 

石川県人 心の旅 バンガイ編 by 石田寛人

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