近年、ランキングが大流行である。もともと、私達はいろんなものに順序付けすることに興味がある。江戸時代でも、相撲の番付にならって、例えば温泉番付とか料理屋番付とかいろいろなものがランキングされていたのを今も見ることができるが、最近、その傾向がとみに顕著になったということだろうか。いかなるものも、量的な比較が可能な限り、それを順に並べれば、ランキングになり、量的比較ができにくくても、アンケート調査などの手段で得た回答数を比べてそれをランキングにすることは可能である。個人の主観的評価をランキングの形に並べることもできる。
このうち、都道府県の面積比較などは、尺度が一本で、数値が明らかなので、順序がはっきりしている。この場合でも、最近は都道府県の境界が変わることはないが、明治初年は、県の再編や統合がよく行われたから、昔のことについては時点をしっかり定めることが必要であり、現時点においても、埋立て等で面積も変わるだろうから、専門家にとって、面積の数値化とて、それほど単純ではないかもしれない。
また、大学ランキングのように、切り口が極めて多く、いろいろな尺度を組み合わせてランキングを決めるものは、その組み合わせの選択によって結果が全く違ってくることに十分留意しなければならない。
最近、ネットやマスコミで頻繁に発表されるランキングは、客観的な数値に基づくものよりも、人々の主観的な意向、判断をサーベイしてまとめた調査、いわば意向調査であることが多い。これは、いつ、だれが、いかなる目的で、いかなる方法によって行ったものかはっきりさせることが大前提になるが、それをはっきりさせないまま、ネットなどを賑わすことも多いようだ。
そんな中で、最近、将棋の駒の強さのランキングがネットに現れて驚いた。それは、4月の4日と5日に行われたインターネットによる自由回答形式の任意回答によるものだった。全国の10代から60代の男女を対象にして、「最も戦闘力が高い駒」はどれかと訊いて、300名から有効回答があったと、調査方法がネット上にも明示されていて、その点は好感の持てる調査であったが、駒の強弱をランキングで表示するという試みにはびっくりした。
私とて、将棋の駒の強弱は子供の頃からよく知っている。それは私だけでなく、殆どの将棋をたしなむ人々にとって当然のことで、王将は捕られれば負けだから絶対の価値があり、まず飛車そして角行さらに金将、銀将、桂馬、香車、歩行の順になることは、駒の大きさからもはっきりしている。それを、今更ながら、駒の強弱を一般の方々に改めて訊くという試みが一面新鮮に映ったのである。
さて、その結果であるが、第一位が飛車で214票、第二位は王将で19票、第三位が角行で18票、そして第四位桂馬が16票、第五位香車が8票となっている。回答者の代表的コメントを読むと、ある程度将棋を指している方だけではなく、あまり将棋を存じない方もその感覚を率直に答えたもののようだった。
次に「みんなのランキング」なるネットを見たら、「みんなが思う強いコマ」に関するランキングが載っていた。これは5月6日の時点で、104人の参加者が、349の回答を寄せ、これはそれぞれの好みの駒について、「超いいね」「いいね」「普通」「うーん」の4段階に分けつつ1点から100点までの点数をつけて、それを平均してそれぞれの駒の強さを評価したものだった。結果は、①飛車91.7点、②角行85.4点、③金将78.5点、④桂馬67.2点、⑤王将65.8点、⑥銀将65.2点、⑦香車60.4点、⑧歩兵55.3点となっている。
これらのランキングには、私はウーンと呻るしかなかった。そもそも駒の強さを多くの方々に尋ねてその結果をランキングに並べることに意味があるのだろうか。駒の強さは、人々の意見で決まるものではない。しかし、プロ棋士や将棋の強い人は、その人なりの駒の使い方があり、それに応じて駒の好き嫌いがあるだろうし、そのため人によって駒の強弱の受け止め方が違うかもしれない。しかし、それを一般の方に訊くことに意味があるのかないのか考慮を要しないだろうか。王将に関しては、その捕獲は将棋というゲームの決勝点であり、ランキングの中に入れてしまっていいか疑問ではある。しかし、王将はそのような決勝点の役割の他にも、自ら攻撃または守備に参加することもあるから、何とも言えないとも思う。このことで、鈍い我が脳も、懸命に回転しようとしたのが自覚できた。
私は、こんなことまでランキングにするのかと驚いたのだが、ひと息ついて考えると、別の思いも湧いてきた。それは、このランキングは将棋にそれほど詳しくない人が、将棋に興味を持ち、駒の動きについて考えるよい機会になっているかもしれないということである。これは将棋への入り口の役目を果たしているかもしれない。これらのランキングは、回答者の数が少なく、調査自体が多くの方々を将棋へ誘うのに、大きな役割を果たしているとは言い難いだろうが、ネットでその結果を見て、将棋に興味を引かれる人が結構あるかもしれない。
将棋のプロになる道は、極めて厳しい。しかし、いろいろの方が将棋を面白いと思うことは大切である。私はなんでもランキングという風潮には、決して賛同しないが、この驚くべき駒の強さランキングには独特の思いを抱いたのであった。(2025年5月25日)
0コメント