(52)ニューヨークの囲碁クラブ

 11月18日から26日まで、石川県を広報するとともに日本文化を紹介するため、金沢のカルチャースクール石心の席主佃優子さんをリーダーとするグループがニューヨークを訪問し、囲碁将棋、書道、そして音楽のイベントを開催した。私は石川県や県内の囲碁団体・将棋団体とともにこのイベントを後援する石川県人会の一員として、このイベントに参加した。現地に到着後、イベント実施に先だって、一行の中の関係者がニューヨークの囲碁クラブを訪問した。

 ニューヨークの囲碁クラブは、英語でNew York Institute of Go、略してNYIGという名称である。日本語では、ニューヨーク棋院と訳される。この棋院は、殷さんという中国の女性が院長として運営されており、マンハッタンの中心とも言えるタイムズスクエアから遠くない場所にある。殷さんの丁寧な案内で、施設を見せてもらった。玄関から入ると、ちょっとした囲碁対局室があって、小テーブルが2台置かれ、碁盤と碁笥が用意されている。奥には広い部屋があり、訪問時には何も置かれていなかったが、大勢の方々が一斉対局するには格好の空間と思った。ここは、ニューヨークやその近辺の愛棋家が集まるには極めて好適な場所のように見えた。

 頂いたパンフレットを開いたら、まずNYIGの説明があり、次のように書かれていた。ニューヨーク棋院は、2016年の設立で、American Go AssociationとChinese Weiqi Association にサポートされた1000人の囲碁プロフェッショナルのグループで、その目標は、囲碁の精神と囲碁の哲学を伝達、高揚することにある。NYIGは、全ての年齢の方々に対する囲碁教室を開いており、毎季あるいは毎年、個人と団体のトーナメントを開催していると。

 さらにパンフレットを詳細に見ると、囲碁が行われている国々を示す世界地図が載せてあり、さらに、世界で囲碁がどのように呼ばれているかが示されている。英語では「Go」、日本語では「Igo:囲碁」、中国語では「Weiqi:囲棋(囲は簡体字)」で、韓国語はハングル表記で書かれており、発音は「Beduk」である。折りたたみを開くと、碁の歴史がかいつまんで述べてあり、世界にGo-playerが6000万人以上いると記されている。その下に2017年にアルファ碁と中国のナンバーワン棋士可潔氏が対局した譜面が掲載されていて、この一局が、AI時代の本格的開幕を告げる歴史的対局であったことを示しているようであった。しかし、AI時代でも、囲碁はその深さが全く損なわれず、その哲学を広めたいという目標をこの棋院が髙く掲げているのは素晴しいと受け止めた。

 パンフレットは、さらに、囲碁は、ビル・ゲーツやアインシュタインも愛好していて、右脳と左脳のユニークな統合が必要とされるゲームであるという記載もあり、設立者の紹介もあって、全体で、碁の魅力を発信をしている。

 さて、この棋院の奥の広い部屋には、世界の著名囲碁棋士の写真がずらりと壁面に飾られていて壮観だったが、その中に、呉清源先生や岩本薫先生の写真があった。

 岩本薫先生は、誰も知る大棋士で、第三期と第四期の本因坊位に就かれ、本因坊薫和と名乗られたが、日本棋院理事長や囲碁中央会館館長を務められ、特に、囲碁の海外普及に大きな力を入れられた方である。先生は、私費を投じてロンドン、サンパウロ、アムステルダム、シアトル、ニューヨークでの囲碁会館等の設立に大きく貢献され、米国などでの囲碁の興隆を図られた。今、日本語の「碁」が、国際用語となり、現に、NYIGも、「Go Center」と名乗っているのは、このような先生の御尽力の賜物のように思われる。その後、ニューヨークの施設は売却されたのは残念であり、今ニューヨークの碁界は中国の方々の方が多く活動されているように見受けたが、今回の佃優子さんのニューヨークでの活動は、岩本薫先生の熱い気持ちを今に生かすものとして、私は、深い感慨を覚えた。

 なお、石川県の紹介や囲碁将棋のワークショップ、書のパフォーマンス、そして3人の若手演奏家によるバイオリン・コントラバス演奏は「Harmony of Japan」と題して、現地の方々やニューヨーク日本人会に対するものと、ニュージャージー日本人学校の児童生徒のみなさんに対するものの二度開催され、いずれも好評を博したが、これら今回訪米全体の状況は、別に述べることとしたい。(2025年11月30日記)

石川県人 心の旅 バンガイ編 by 石田寛人

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