2022.09.02 12:08(9)囲碁将棋人口 最近、将棋の藤井聡太五冠の驚異的勝率でのタイトル獲得・防衛や、少女囲碁棋士仲邑菫さんの活躍で、囲碁将棋がテレビや新聞やネットに登場する機会が多くなった。それにともなって、囲碁将棋に関心を持つ人が増えているのではないかと言う向きがある。ぜひ、そうあってほしいと思うが、実態はどうだろうか。 私の率直な感じで言えば、私の若い頃、囲碁や将棋は、今よりもっと身近にあったように思う。企業や官庁のオフィスのロッカー上には、碁盤と碁笥に入った碁石、あるいは将棋盤と駒箱の中の駒が置いてあって、昼休みには昼食もそこそこに一局10分から30分の超短時間対局がそこここで楽しまれていた。最近は、娯楽がとみに多様化していて、いろいろなスマホのゲームを気軽に楽しめる。今や相手なし...
2022.09.02 12:05(8)国民娯楽 バンガイ編の初回で書いたとおり将棋の先崎学九段は特別な能力を有する棋士である。もっとも、囲碁将棋のプロ棋士は、一般人に懸絶する棋力の持ち主ばかりだが、先崎九段は、加えて、その筆力が、そちらのプロにもなりうる程で、「先崎学の実況!盤外戦」は、実に読ませる随筆である。そんな九段は、文藝春秋の2021年5月号のコラムに「将棋短歌」と題する一文を草し、自身の著書「先崎歌壇笑」の紹介とともに、同僚棋士を詠んだ歌を示され、「将棋は遊びで、人の笑顔をつくるためのものである」と喝破されている。最後は、「人の世に 活気を 余暇に くつろぎを なにもつくらぬ 棋士の役目は」と、句またがりの一首で締めくくられている。確かに将棋棋士や囲碁棋士は、直接生活に役立つ製品を造った...
2022.08.26 08:58(7)囲碁と将棋とグーゴルと 去年2月11日、日本経済新聞の囲碁欄を見て驚いた。掲載されている棋譜の囲碁盤面が殆ど埋まっている。趙治勲名誉名人対関航太郎三段の王座戦予選特選譜の総譜で趙名誉名人3目半勝ちの一局だったが、手数が395手に達している。碁盤の広さは縦19路横19路で361目の地点があるが、それを遙かに超える長手数である。碁は相手の石を囲むとそれを盤面から取り上げるし、コウという手段があって、何度も取り返し合うことがあるから、同じ地点に二度も三度も打てる。よって、総手数が盤上の地点の数361を超えることは理論上あり得るし、過去にもそんな対局はあったが、それにしても、私自身は盤面がこのように埋まった総譜を見るのは初めてなので、いささかの感慨を覚えた。 囲碁や将棋の「場合の数...
2022.08.26 08:57(6)王将と玉将 将棋の駒は「王」のほか、「飛車」「角行」「金将」「銀将」「桂馬」「香車」「歩兵」があって、合計8種ある。敵陣に出入りすると働きの違う駒になることがあるが、これを別とすれば、元々は8種類である。9路×9路の盤上で戦われる将棋の駒は、9種類であるほうが美しいと、先崎学九段は書いておられる。そして私は、実は9種類と言ってよいのではないかと思っている。その根拠は、敵味方の「飛車」から「歩兵」に至る7種に加えて、「王」をよく見ると、「王将」と書かれた駒と「玉将」と書かれた駒が一個ずつあり、敵味方で字が違い、これを2種とみなしうることにある。そして、王将と玉将を書き分けることには意味があると思う。将棋のルールでは、捕獲した敵の駒は、駒台の上に乗せて、やがて自分の...
2022.08.26 08:55(5)『左から』か『右から』か 新聞紙上に並ぶ囲碁欄と将棋欄を見ると気になることがある。それは囲碁も将棋も、先手から見た形で盤が表示されているのは同じであるが、数字による地点表示の仕方が違うことである。縦横19路の囲碁では、縦は[上から下]、横は[左から右]の順に数字が並ぶのに対して、9マス×9マスの将棋では、縦の[上から下]は囲碁と同じながら、横は[右から左]と囲碁と逆になっているのである。これはいかなる理由なのだろうか。 そもそも、一局の記録をつけるという点で、囲碁と将棋はかなり違う。将棋は、駒が動くゲームだから、その記録のためには、「地点Aから地点Bへ」などと、出発点と到達点の明示が不可欠である。それに対して囲碁は、何も置いてない盤の上に順次石を置いていくから、石の置かれた場...
2022.08.26 08:52(4)ディラックの碁 前回触れたデイラックの碁について追述したい。先に書いたとおり、囲碁は、碁盤の大きさを変えても、現行のルールをそのまま適用して楽しめるところに大きな特徴があるが、碁盤には、当然ながら辺(ヘン)と隅(スミ)がある。その辺と隅をなくしたのが、ノーベル物理学賞を受けて斯界では極めて有名なディラック先生だ。前回も述べたように、辺をなくするには、碁盤をゴムのように曲げやすいものと心得て、左の辺と右の辺を繋げばよいし、そうしてできた円筒型碁盤の両方の端をくっつければ、上辺と下辺もなくなり、同時に隅もなくなる。それが、ドーナツ型、幾何学で言うトーラスの形である。その上で碁を打つのであるが、これも既述のとおり、ドーナツの形状をした立体の上でなければ打てないわけではない...
2022.06.26 05:32(3)碁盤と将棋盤 子供の頃、私の小松の家には、将棋盤はあったが、碁盤はなかった。祖父は、碁や将棋が好きでなく、勝負事にのめり込むなといつも言っていた。碁盤は私に良くないと思って始末したけれども、将棋盤はそれを忘れたのかもしれない。しかし、近所の友達の家には碁盤があったので、祖父の言葉もものかは、私は小中学生の頃から碁を打ち、将棋を指していた。かくして七十年も将棋や碁に親しみながら、一向に技倆が向上しないことには、驚くほかはない。祖父の言葉が胸の奥底に沈潜していて、上達することについて体内で何らかの抑制が働くのではないかとすら思う。 そんなことを思いながら、碁盤や将棋盤をじっくり見ていると、いかなる理由で、現在の大きさになったのか考えさせられる。 将棋は、かつて大将棋...
2022.06.20 05:32(2)竜星と銀河 私の日曜日。約束のない日は、NHKの将棋と囲碁で過ごす。最近、囲碁将棋とも画面上部にAIによる双方の勝率が出るので、一段と面白くなった。ここでの勝率は、両対局者がそれから最善を尽くした場合でのことである。プロ棋士でも、常に最善手を選べるわけではなく、しかも、対局者当人は、その勝率自体を知らされていないから、懸命にヨミを尽くして、ベストの手を探し出そうとする。その姿が美しい。 ケーブルテレビの「囲碁将棋チャンネル」もよく見る。ここのプロ棋士のトーナメント戦は、囲碁が「竜星戦」、将棋が「銀河戦」。両棋戦は一般棋戦ではあるが、優勝者は、タイトル戦のように「竜星」、「銀河」と呼ばれる。 囲碁の七大タイトル「棋聖」「名人」「本因坊」「王座」「天元」「碁聖」「十...
2022.06.18 05:31(1)盤外と番外 今年の前半、金沢では、将棋と囲碁のタイトル戦が3回も行われた。2月の北國新聞会館での将棋棋王戦5番勝負の第2局目、4月の滝亭での将棋名人戦7番勝負の第2局目、5月の尾山神社金渓閣での囲碁本因坊戦7番勝負の開幕戦第1局目である。囲碁の碁聖戦と将棋の棋王戦は北國新聞社のはからいで、金沢対局が頻繁に行われ、これは石川県や北陸地方の囲碁将棋ファンにとってとても有り難いことだが、今年は、それに将棋名人戦と囲碁本因坊戦が加わったのである。これは、金沢で「カルチャーセンター石心」を主宰する佃優子さんの懸命の努力に負うところが極めて大きいが、私は、佃さんに極くささやかにお手伝いした余慶で、将棋囲碁タイトル戦の金沢対局の雰囲気にたっぷり浸ることができた。その顛末は、新...