2025.01.21 08:12(42)王将戦の主催 囲碁将棋人口は減少を続けているとされているが、新年を迎えて、今年はぜひ、囲碁と将棋が多くの方々の楽しめる娯楽文化であると再認識される年であってほしいと念願している。 ところが、この1月7日、スポーツニッポン社と毎日新聞社が王将戦の主催を降りて、特別協力の形になると新聞やネットで報じられた。誠に残念である。 名人戦、王将戦、本因坊戦など囲碁や将棋のプロ棋戦の多くは、新聞社と日本棋院、関西棋院、日本将棋連盟の主催によって行われてきて、多くのファンを獲得し、今日に至っている。毎日新聞社などの各新聞社の囲碁将棋振興に対する貢献は誠に大きく、私はファンの一人として、これまで新聞社が果たしてきた役割とその功績に深く感謝している。しかし、このところ、新聞全体の中で...
2024.12.13 03:40(41)リアルとオンライン コロナ以来、オンライン会議がすっかり定着した。私が関係している公益財団法人の理事会や評議員会などは、オンライン出席が正規の出席とみなされるので、とてもありがたい。新法人制度が発足した当初、理事会と評議員会は本人出席が厳密に求められていたので、定款の定める定足数確保に苦労した話を聞いたことがあったが、オンラインは状況を一変した。 囲碁将棋もオンラインによる対局がかなり広く行われるようになった。これまでも囲碁将棋のソフトがどんどん開発されて、一人でソフトを相手にパソコンに向かって勉強かたがた対局する方が多くあったが、オンライン対局では、ソフトではない人間がパソコンの向こうにいるのだから、実際の対局に近い臨場感がある。ソフトは、今や強弱いろいろ調整できて、...
2024.11.25 12:24(40)二人零和有限確定完全情報ゲーム 前回論じたように、囲碁将棋などは、「二人零和有限確定完全情報ゲーム」といわれるが、これはいかなることを意味するのであろうか。また、囲碁将棋は、厳密にそれに当てはまるのだろうか。前回書いたように若干の議論はありうる。 まず「二人」であるが、これは言うまでも無く、二人で勝ち負けを競うのが囲碁将棋であるから、これについては疑義が発生するところはない。 次に「零和」については、その二人が対局すれば、勝つか負けるか引き分けかで、一人が勝てばもう一人は負ける。プラスマイナスがぴったりバランスするという意味である。囲碁も将棋もこれにも当てはまっている。囲碁将棋対局の結果がウィン・ウィンになればいいが、そんなことはない。まさに「零和」と言い切りたい。しかし、囲碁につ...
2024.10.28 01:42(39)ノーベル賞と囲碁将棋 今年のノーベル賞では、何と言っても、日本原水爆被害者団体協議会の平和賞受賞が特筆されるが、物理学賞、化学賞ともAI関係の研究者技術者が受賞対象となったことも大きな注目を浴びた。 今やAIは、我々の生活に大きな役割を果たしている。物理学賞、化学賞の両方で、AI開発が脚光を浴びたのは、まさに時代の反映と言える。 物理学賞は、AIの中核ともされる機械学習の基礎を確立して、「ディープ・ラーニング」等の新たなモデルの形成につなげた米国プリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授とカナダのトロント大学ジェフリー・ヒントン教授が受賞された。ヒントン教授には、2019年に本田財団から本田賞を贈呈し、同財団の役員として私自身も直接その謦咳に接したので、教授のノーベル...
2024.09.23 02:00(38)石の下 「碁盤斬り」の映画では、「石の下」という囲碁の手筋が重要な役割を果たしている。このくだりは、私の知る限り、落語「柳田格之進」の中では語られることがないので、映画化の際に新たに付け加えられたものかと思われる。誰が「石の下」をこの映画に用いることを考えたのか。碁の内容を指導された井山王座碁聖十段か関山九段か藤沢女流三冠か、あるいは、出演者かスタッフか。プロでないならば相当の碁好きの方の発案と思われる。ともかく、主人公と敵役の間で緊迫する囲碁勝負が行われ、「石の下」の筋が現れた場面では、私は思わず手を握りしめた。 「石の下」とは、どんな手筋か。ウィキペディアを見ると、「囲碁用語の一つで、意図的に相手に石を取らせて空いた交点に着手する手筋のこと。実戦に現れる...
2024.08.25 05:48(37)映画碁盤斬りを見る 前々回に本欄に書いた「碁盤斬り」について、金沢の佃優子さんに加え、東京で碁を教えて頂いている小林千寿さんからも、この映画を観るように奨められ、今月4日の日曜日の朝、新宿伊勢丹向いの映画館キノシネマに出かけた。 私が映画館に行くのは久しぶりで、前回を思い出せないほどだ。映画館といえば、小学生の時、学校から行った集団の映画鑑賞が懐かしい。最初に見たのは天然色のソ連映画「石の花」。ストーリーはさっぱり分からなかった。学校に戻り先生から主人公の名前を尋ねられて答えられず、ダニールシカと聞いて、そんな人が出ていたのかと感心する始末だった。 「ゴジラ」もそんな映画鑑賞で見た映画だ。「オキシジェンデストロイヤー」で海の水がブクブク泡立ったのに目を見張った。酸素を...
2024.07.23 12:38(36)叡王戦の結果 6月20日将棋の八大タイトル戦のひとつ叡王戦の挑戦手合5番勝負の第5局が藤井叡王と伊藤挑戦者の間で行われた。結果は挑戦者の勝利。かくして、伊藤匠七段が叡王位を奪取した。藤井八冠は七冠となった。この挑戦手合は、加賀市の片山津温泉で第2局が戦われ、先々月この欄でご報告したように、私は現地で大盤解説会に参加したこともあって、一番ごとにチェックを続けた。この最終局は、石川県から東京へ戻る北陸新幹線車内でスマホを覗いてAbemaTVをフォローしたが、将棋の内容はよく理解できなかった。しかし、結果ははっきりしていた。八冠の一角が崩れたことに、言い知れぬ淋しさを覚え、胸中に大きな空洞ができたように感じた。同時に、その空洞の中で、新叡王のさらなる発展を祈る気持ちが芽...
2024.06.27 11:49(35)碁盤斬り 先日、金沢の泉野町にあるカルチャースクール「石心」に佃優子さんを訪ねた。相変わらず子供達は将棋に、年配者は囲碁に夢中であったが、その折、佃さんから映画「碁盤斬り」を見るように勧められた。草彅剛主演のとても面白い映画で、佃さんとも懇意の井山裕太王座・碁聖・十段や女流の藤沢里菜女流名人女流本因坊が、碁の打ち方を指導され、盤上に並べる碁をいかなるものにするかを苦心しつつ、映像にも顔を出しておられるということだった。「碁盤斬り」の言葉から、「柳田格之進」という落語に、そんなストーリーがあるのではないかとかすかな記憶を口にしたら、まさにその落語に題材を求めた映画だということだった。 そこで、早速、映画「碁盤斬り」を見に行って、感じたところをこのバンガイ編に書こ...
2024.05.21 13:42(34)片山津の叡王戦 将棋のタイトル戦叡王戦は、新しい棋戦である。いくつかのタイトル戦同様、トーナメント戦の優勝者がタイトル保持者に挑戦する。挑戦手合は5番勝負で一日制。現在のタイトル保持者すなわち叡王は藤井八冠で、今年は藤井八冠と同年齢の伊藤匠七段が挑戦している。 叡王戦は、プロ棋士とコンピューター将棋ソフトウェアが対戦する将棋電王戦に淵源を持ち、ドワンゴから不二家に主催が移って開催されている棋戦で、2015年創設、2017年にタイトル戦となった。タイトルへの挑戦手合は、毎年、名人戦と重なるようにして行われ、当初7番勝負であったが、今は5番勝負に改められた。 この棋戦で面白いのは、一次予選が、各段ごとにトーナメント方式で行われることで、各段から勝ち上がった1、2名の棋士...
2024.04.24 01:38(33)囲碁と歌舞伎[5]国性爺合戦等 前に触れた藁科満治さんの著書「歌舞伎に踊る囲碁文化」を読売新聞社から頂いたのが昨年の秋。この書を読んだことを早く書きたかったが、ついつい今月になってしまった。しかし、これまで何度も読み返して、藁科さんの造詣の深さにただただ驚嘆するばかりである。 さて、その内容であるが、やはり舞台の中身と囲碁が密接に関係する場面がある芝居として、「碁盤太平記(ごばんたいへいき)」「祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれい・しんこうき)」と「碁太平記白石噺(ごたいへいき・しろいしばなし)」が挙げられている。この3作の他に、藁科さんは、①「国性爺合戦(こくせんやかっせん)」と②「花野嵯峨猫魔稿(はなのさが・ねこまたぞうし)」を同様の趣向のものとして並べられている。 ①は、我が国と中...
2024.03.22 07:17(32) 棋王戦の金沢対局 前々回のバンガイ編で強く希望した今年度の棋王戦挑戦手合いの富山県魚津市の第1局、金沢市の第2局、そして新潟市の第3局が、予定通りに実現した。対局者である藤井聡太棋王(八冠)と伊藤匠挑戦者(七段)両対局者をはじめ関係者には、能登半島地震とそれからの復興に関して、十二分に心に掛けて頂き、被災者の大きな励みになったと思われる。石川県人の一人として厚くお礼申し上げたい。 さて、この挑戦手合いは、藤井棋王先番の魚津対局が、持将棋となって、見る者を驚かせた。挑戦手合いにおける持将棋はそれほどないことと聞いており、このタイトルへの両対局者の熱意がこのような結果になったように思われる。 続いて2月24日に金沢市で行われた第二局は、事実上の第一局とも言え、持将棋の後の...
2024.02.20 09:03(31) 勝率AIの進歩により、囲碁将棋のテレビ対局では、終始、両対局者のその時点での優劣の度合いが明らかにされている。白黒のバーが、先手後手の勝つ可能性をパーセンテージで示してくれるので、複雑な内容を全く理解できない我々も、興味を持って画面を見続けることができる。囲碁将棋のルールを知らない私の妻も、優劣の度合いと対局者の仕草や表情の関係が面白いと言う。白黒バーを見ることができない対局者も、絶えず客観的な形勢判断をしているのは当然で、それを態度に顕す棋士も、そうでない棋士もあって、私もその仕草に興味を惹かれる。 昨年12月17日のNHK杯トーナメント、斎藤慎太郎八段対増田康宏七段の対局放送のテレビを、白黒バーの変動と対局者の動きに注目して見つめた。11時20分ころは...