2023.06.27 02:46(21)囲碁と歌舞伎[1]碁盤太平記 歌舞伎には囲碁に関係する演目があり、それぞれ面白い。参議院議員・官房副長官を務められた藁科満治氏は、このことに詳しく、著書も出されており、私も早く読みたいと思っているが、まだ手許にないので、まずは私の思いを綴りたい。 タイトルに「碁」が付くことで有名なのは、「碁盤太平記(ごばんたいへいき)」である。この演目は、バンガイ編(2)で触れた歌舞伎の大人気演目で「独参湯」と言われる「仮名手本忠臣蔵(かなでほん・ちゅうしんぐら)」の先行作品のひとつであるが、近松門左衛門の筆によるもので、単なる先行作ではなく、「仮名手本忠臣蔵」の主な役名は本作からきており、作品自体、今も上演される。 播州赤穂の殿様浅野内匠頭が、殿中で高家筆頭吉良上野介に刃傷に及んで切腹した事件...
2023.05.19 14:30(20)ヘップバーン バンガイ編(18)では、囲碁将棋対局における地口やダジャレとの関係で、将棋棋士豊川孝弘七段のオヤジギャグについてふれた。豊川七段のギャクは聴いていて面白く、これで将棋ファンが増えたのではないかと思われる。ところで、アマチュア対局者同士の地口やダジャレと豊川ギャグには若干の相違があると思う。 それは、前者は、対局者が自分や相手の着手に関して思わず口から出る叫びやうめきであり、それに関係する言葉がくっついたものであるのに対して、後者は、解説者たる豊川七段が、第三者として対局を見て、その状況をわかりやすく面白く表現し、視聴者の理解を深めるために発する言葉というところにある。つまり、前者は主観の叫び、後者は客観の観察言葉なのだ。 対局者が相手の着手に身構える...
2023.04.17 10:33(19)本因坊戦の縮小 4月8日、囲碁の本因坊戦の仕組みが変更されることが報じられた。かなりの制度縮小である。ついに来てしまった。本因坊戦の縮小案が取り沙汰されていることは、かねて仄聞してはいたが、7日に主催者の毎日新聞社から正式に発表された。 改革される本因坊戦は、まず挑戦手合いの七番勝負が五番勝負に、二日制が一日制に変更される。本因坊への挑戦権を直接争うリーグ戦は廃止され、全てがトーナメント方式に替わる。報じられるところでは、挑戦手合いの勝利者の賞金も現在の2800万円から850万円に大幅減額されるようだ。棋戦の序列は、賞金額の順序によって決まる。したがって、七つのタイトル戦のうちで、棋聖戦、名人戦についで序列第3位の本因坊戦は、第5位に落ちることになる。 本因坊戦は伝...
2023.03.28 11:26(18)地口とダジャレの解釈 前々回、アマチュア囲碁将棋は、おしゃべりがうるさいけれども、楽しくもあると書いた。対局中に口をついて出る地口、ダジャレ、オヤジギャグのたぐいは、誰もが知る分かりやすい地名や神社仏閣の名前が使われている。思わず口から出るものだから、構造としては、始めの部分が心からの「叫び」や「うめき」であり、続く言葉がそれの関連語であることが多い。「草加、幸手は千住の先」では、言うまでもなく「草加」がポイントで、幸手の代わりに栗橋でもよい。事実そのように言うこともある。千住の方は、日光街道で草加宿の手前の宿だから動かせない。「見上げたもんだよ、屋根屋のふんどし」では、前半が率直な声だ。我々が見上げるのは屋根屋だけでなく、今や、東京タワーやスカイツリーならもっと高く見上...
2023.02.26 07:36(17) 金沢の王将戦と棋王戦 王将戦:誰もが感動した歴史的対局 1月28日29日の両日、タイトル戦番勝負無敵の藤井聡太王将(五冠)にレジェンド羽生善治九段が挑戦する王将戦挑戦手合七番勝負の第三局が金沢東急ホテルで行われた。この夢の対局が金沢で行われる日が待ち遠しく、27日の前夜祭には急いで会場に駆け付けた。静岡県掛川の第1局では藤井王将、大阪府高槻の第2局では羽生九段がそれぞれ勝利して、一勝一敗で金沢での対局を迎えたので、この一局の帰趨がおおいに注目された。 金沢文化ホールでの前夜祭は、金沢の芸妓さんたちによる金沢素囃子で幕を開けた。両対局者以下、多くの将棋高段棋士の前での演奏で、金沢素囃子保存会「杵望会」のみなさんは、歴史的対局の前夜という緊張の中にあって、見事な「連獅子」を披...
2023.01.22 11:51(16)沈黙とおしゃべり 将棋の佐藤天彦九段のマスクに関する件で、プロ棋士の囲碁将棋対局は沈黙のうちに行われることが論じられた。プロの対局で、対局者同士が相互に言葉を交わしながら指し手を進めるということはないようだが、かつては対局内容に関係のない会話が交わされたことは、それなりにあったと想像される。また、記録係は、残り時間を告げたり、秒読みしたりするために声を出すし、係の人が昼食や夕食の注文を訊くと棋士はそれに答えなければならないから、対局室が完全な無声の場ということではないはずだ。しかし、囲碁でいう局後の検討、将棋でいう感想戦は別として、基本的にプロの対局は、静かに行われる。 それに対して、アマチュアの囲碁将棋の対局はにぎやかなことが多い。声を出す人はかなりいる。というより...
2022.12.20 12:09(15)マスクと将棋 10月28日の永瀬拓矢王座と佐藤天彦九段の将棋順位戦A級対局で、佐藤九段がかなりの時間マスクを外して、負けの判定を下されたことについて、いろんな意見がネット上に開陳された。今は落ち着いたようだが、報じられたところを総合すると、今回の一件は、普通のプロセスをたどっていて、格段に揚言することでもないように思える。 本件報道に接した人々が、すぐの反応として、マスクを外したら一発で負けというのはひどすぎる、コロナ感染防止の観点というなら一言注意すればよいだけではないかという思いを抱き、一部の文化人を含む多くの人々が、この判定は理解できないとネットで声を上げたのは、もっともと思われる。しかし、そんな方々の多くは、プロ将棋棋士の対局実態について熟知しておられると...
2022.11.22 04:35(14)逆王手 今年のプロ野球日本シリーズは、第7戦に至る熱戦の末オリックスが4勝2敗1引き分けで勝利した。7戦まで行けば、「王手」に対する「逆王手」の表現がスポーツ紙を飾るのが普通だったかもしれないが、それが無かったのが、1引き分けの効果だ。よく用いられるのは、Aチームが先に3勝すれば「王手」。そこにBチームが追いついて3勝3敗になれば、Bチームが「逆王手」。そして第7戦を戦うことになる。 しかし、この状況は、将棋対局上の「逆王手」とは違う。将棋盤の上で、「王手」をかけられた人は、次の一手で「逆王手」をかけうるが、「逆王手」をかければ、自らにかかった「王手」は解除される。しかるに日本シリーズの場合は、「逆王手」をかけても、依然として自分にかけられた「王手」は解除さ...
2022.10.17 12:01(13)花見コウ 科学技術庁職員だった私は、外務省に出向し、在米大使館の科学担当参事官として勤務した。さらに、一般職の国家公務員を退職した後、チェコとスロバキアの大使の役目を頂いたが、これら外国勤務では終始言葉に苦労した。英語は中学校で習い始めて以来、長く付き合ってきたが、一向に上達しない。チェコ語とスロバキア語は難しい。この両言語は極めて似ており、別の言葉と言えるかどうかというほどの違いと思えるが、我が外務省にはチェコ語とスロバキア語の専門家がそれぞれいて、密接に交流している。この両言語の難しさは、まず格変化の多さにある。名詞が、主格、生格、与格、対格、呼格、前置格、造格と7格に変化する。固有名詞も格変化する。「イシダ」は主格だが、呼び掛けの場合は「イシダ」ではなく...
2022.09.24 12:15(12)本因坊就位式 9月9日、本因坊就位式に呼ばれたので、末席を汚すため、ひさしぶりに目白椿山荘の門をくぐった。椿山荘はなつかしい。私は大学生時代の4年間、このホテルの極く近くにある財団法人和敬塾の北寮で過ごした。神田川左岸の目白台は、田中角栄邸、目白運動場、細川侯爵邸のあとの和敬塾、講談社の野間省一邸、そして旧山縣有朋邸であった椿山荘が並ぶようにして続いていて、今も、様子はそれほど変らない。学生時代は椿山荘に入ったことはなかったが、夏には、椿山荘で放す蛍が和敬塾の私の部屋の窓辺まで飛び来って、蛍雪の功成れかしと励ましてくれるように感じたものの、その甲斐がなかったのは残念ではあった。その後、椿山荘は、旧科学技術庁の若手職員の仲人を務めたり、北國新聞社が牽引する1000人...
2022.09.16 07:38(11)控える 9月4日の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第34回「理想の結婚」で、菊地凛子さん演ずる北条義時第三の妻「のえ」が登場した。「のえ」は、義時との見合いの場では極めてしおらしく振る舞い、肩の上の落ち葉をそっと取ったり、贈られた茸を大好きと言ったりして、好感度満点の態度だった。かくして、義時の妻の座を確実にしたのだったが、他の侍女とおぼしき女性達だけと一緒になったときには、義時から貰って好きだと言った茸を「嫌いだから持って行きな」と侍女に下げ渡し、「(もはや自分は)鎌倉殿とも縁者ってこと、控えよ、控えよ」と冗談めかしながら高飛車に叫ぶ場面を、義時の息子泰時に見られてしまうというシーンがあった。先行きの展開がいろいろ気になるところであるが、ここで私は「控えよ」と...
2022.09.02 12:11(10) 視力 8月9日の竜王戦挑戦者決定戦。広瀨章人八段と山崎隆之八段の対局を中継ブログで見ていたら、昼食休憩明け対局再開の前に「定刻前、両者は眼鏡を外して目を休めていた」という記述と写真があった。その後、対局をAbemaTVでフォローしたら、夕刻以降山崎八段は一度ならず目薬をさされていた。将棋対局は目に大きな負担をかけるようだ。 私は、子供の頃から近視で、視力に自信がなかったし、娘は専ら顕微鏡を覗く病理の仕事で目を酷使しているので、ずっと目の疲労について関心を持ってきた。ただ碁将棋に関しては、私は大会で一日3局連続して盤に向かっても、あまり目の疲れを感じない。我が対局は30分から最長2時間弱の短時間決戦で、目をこらす時間がない。盤面を凝視して深く考えたいが、考え...